コーポレートガバナンスから見た「投資したい企業」の条件

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お話をうかがった人

監修者

名古屋市立大学 准教授

坂和秀晃

名古屋市立大学経済学研究科准教授。東京大学経済学部卒業後、大阪大学大学院経済学研究科で博士(経済学)を取得。2009年より名古屋市立大学大学院経済学研究科にて、講師を経て現職に就く。2013-2014年に、金融庁金融研究センター特別研究員、2017-2018年に、コロンビア大学日本経済経営研究所のフルブライトプログラム客員研究員等の活動がある。

株式投資をしていると、企業の不祥事によって大きく株価が下がるケースを見かけます。大切な資産を投じるなら、こうしたトラブルの可能性が低い企業に投資をしたいと思いませんか?

比較的安心して投資できる企業のヒントを、企業ガバナンスについて研究されている名古屋市立大学の坂和秀晃准教授にうかがいました。企業の経営体制から見て、トラブルの少ない投資対象を見つけてみましょう。

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Section1 企業ガバナンスの判断材料は「外部目線があるかどうか」

坂和先生はファイナンス領域のうち、特にコーポレートガバナンスや投資行動について研究されています。「坂和という名字は珍しくて、よく配送業の『佐川』さんと間違えられるんですよ」とおっしゃる気さくな方です。

そんな坂和先生が専門するコーポレートガバナンスは、企業の経営に関して管理や監督を行うしくみに関する分野です。主に「健全な企業経営が行える体制があるか」「企業管理体制が整っているか」といった論点があります。

そもそもガバナンスの効いている企業には、どのような特徴があるのでしょうか?先生にうかがいました。

「企業のガバナンスが効いている企業はもれなく、その企業に対して出資している株主との関係性を重要視しています。

企業経営というと、つい企業の内部に目がいきがちですが、『株主からどう見えているか』『株主に利益をどう還元するか』といった視点を持っていると、必然的にガバナンスが機能するようになりますね」

こうした外部目線を持っていれば、粉飾決算などの不祥事を防げる可能性が高まり、結果的に安心して株を保有していられる可能性が高まるそうです。

では企業のガバナンスが効いているかどうかは、どう判断すればいいのでしょうか?一番分かりやすいのは、取締役会にどのようなメンバーが入っているのか。

取締役会は、企業経営におけるトップの意思決定機関で、株主からの注目度がかなり高い組織です。そのため企業ガバナンスを改善しようと思ったら、まずは取締役会の改革から着手する企業が多いとのことでした。

では取締役会に入っているといいメンバーは、誰なのでしょうか?

「最も好ましいのは、社外取締役を複数人任命していること。ガバナンスを効かせるには、社内から選ばれたメンバーに対して、第三者目線からフラットな意見が言えるメンバーがいる必要があります。社内の役員が、社長や会長に向かって意見するのは、かなり難しいですからね。

そういった観点から、社外取締役が置かれている取締役会の方がコーポレートガバナンスが効いているとされます。

また、その事業に関連する専門家や弁護士・税理士といった士業、社内から女性を役員に抜擢しているケースも、ガバナンスにはプラスに働きます」

つまり、取締役会において多様な意見が出るメンバー構成になっているのかどうかが、企業ガバナンスにおいては非常に重要だということです。

ただ会社から見ると、こうした外部目線を取り入れる弊害も一部ある様子。例えば社外取締役を入れた結果、今まで通りのやり方が「コンプライアンス上問題では?」と言われて使用できなくなる、「株主への情報公開の機会を増やすべきだ」と言われ、IRにかかるコストが増加するなどです。

しかし企業ガバナンスを正常化させて、株主目線を忘れずに経営することは、長期的に見ると資金調達や企業の安定性といった面でプラスにはたらきます。よって企業ガバナンスはやはり改善しておくに越したことはないでしょう。

Section2 「ROEの高さ」「海外上場」にも着目

ガバナンスの効いている企業を見つける手段は、他にもあるのでしょうか?先生いわく、ROEに着目することも重要だそうです。

「株主は利益を期待して投資しているわけなので、その株主に配当などで還元しているかどうかは非常に大切です。この株主への還元に関してチェックしやすいのは、「自己資本利益率(以下、ROE)」という指標です。

ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

この式を見ると、当期純利益がしっかり上がってこそ、株主に還元できることが分かります。このROEの数値向上を経営目標に置いている企業も多いです。よって企業を選ぶ上ではしっかり見ておきたい指標でしょう」

なお東京証券取引所は、ROEが高めの銘柄を集めて「JPX日経400」という指数を作っています。選定対象になる銘柄は、東証一部・二部・マザーズ、JASDAQに上場している全銘柄。そのうち、上場後3年未満や債務超過している企業などを除き、直近3年間の売買代金や時価総額など多くの項目から判断して、最終的に順位をつけて400社を選んでいます。

またこの順位付けで加点される項目には、3年間の平均ROEが40%以上であること、独立社外取締役が2人以上いることも含まれています。よってJP400に採用されている銘柄は、ROEが高いと見ていいのです。

さらに先生に、ガバナンスの効いている企業の見分け方を伺ったところ、次のような視点もいただきました。

「企業のガバナンスについては、日本市場よりも海外市場の方が評価が厳しいです。そこから考えると、日本だけでなく海外の証券市場にも上場している企業は、比較的企業ガバナンスがしっかり機能していると言えます」

ニューヨーク証券取引所に上場している日系企業は、現在11社あります。この11社は海外投資家からの厳しい目線をクリアしているので、比較的安心して保有できるのではないでしょうか。

【ニューヨーク証券取引所に上場している日系企業(全11社)】

  • ソニー(1970年)
  • 本田技研工業(1977年)
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ(1989年)
  • オリックス(1998年)
  • トヨタ自動車(1999年)
  • キヤノン(2000年)
  • 野村ホールディングス(2001年)
  • みずほフィナンシャルグループ(2006年)
  • 三井住友フィナンシャルグループ(2010年)
  • 武田薬品(2018年)
  • メディロム(2020年)

※カッコ内は上場年。メディロムはNasdaq、それ以外はNYSEに上場している。

また、東京証券取引所に上場している企業は、「コーポレートガバナンスに関する報告書」というレポートを作成、提出しています。このレポートは東京証券取引所の公式サイトから閲覧できますので、気になる企業があればチェックしてみましょう。

Section3 友好的な企業買収・親子上場の廃止も注目ポイント

上場企業に関する話題の1つに、企業買収(TOB)があります。TOB(Take Over Bid)とは、すでに市場で取引されている株式を一定比率まで買い付けて、企業を買収することです。このTOBには「友好的TOB」と「敵対的TOB」の2種類があり、敵対的TOBの場合はその関係性が泥沼化して、企業にもマイナスイメージを与える可能性があります。

昨今のコロナ禍では、一般的なTOB以外にも「親子上場の解消」が複数発生しました。この親子上場に関して、子会社株を保有しておくメリットはあるのでしょうか?

「親子上場は、一般的なTOBと比較しても友好的に行われることが多く、買収・企業統合にかかるコストが最小限に抑えられるのが特徴です。また元々同じ会社だった2社なので、上場廃止後にシナジー効果を発揮し、業績にプラスとなる可能性もあるでしょう。

投資家がTOBされる子会社株を持っていると、多くの場合30%程度の『プレミアム』を付けて株を買い取ってもらえます。よって思わぬ大きな利益につながる可能性が高いです」

なお2020年に親子上場を廃止した企業は、次の通りです。

  • 野村総合研究所:だいこう証券ビジネスを吸収
  • ソニー:ソニーフィナンシャルホールディングスを吸収
  • ライク:ライクキッズを吸収
  • 日本電信電話(NTT):NTTドコモを吸収
  • JSR:医学生物学研究所を吸収

今後も親子上場の解消が進むかどうかは未知数ですが、これを念頭に株をチェックしておくといいかもしれません。

Section4 短期投資・長期投資は自分の性格からも判断できる

最後にこれから株を買う方に向けて、株選びのアドバイスをいただきました。

「どの株を買えば正解かを考える前に、自分が短期投資と長期投資のどちらに向いているのかを考えてみるのはいかがでしょうか。行動経済学の観点から見ると、人の性格は予想以上に投資行動に大きく影響しているからです」

自分の性格を踏まえた上で、もし短期投資を行うなら、今後短期間で株価が上がりそうな銘柄を見つけ投資します。「値上がり益」に着目して株選びをするわけです。

この短期保有向きの株を見つける際は、直近の経済ニュースで企業にとってプラスのニュースが出ているかどうかを確認しましょう。ニュースが出た直後はもちろん、その後も投資家による買付が行われ、株の値上がりが期待できる可能性があります。

その後もし悪いニュースが出たら、その逆の現象が起きるでしょう。株価が大きく下がってしまう可能性があるなら、早めに売り抜いておく必要があると思います。

一方で長期投資向きの株を見つけるなら、値上がり益ではなく「保有期間中の配当や株主優待」を期待することになります。

配当は現金での利益還元、株主優待は、品物やサービスによる還元です。ROEや配当利回りなどの数値を確認しながら、保有したい企業を探してみるといいでしょう。

「保有する期間に応じて、購入すべき株は変わってきます。自分の性格を踏まえ、自分に合った株式を探してみてください。

その選定途中で、『この企業はガバナンスが効いているかな?不祥事が起きそうもないかな?』と確認する視点を持つことで、株選びがワンランク上達するのではないでしょうか」

執筆:金指 歩

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