老後資金はどうやって貯めるのが正解?年金の専門家が解説

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お話をうかがった人

監修者

東北学院大学 経営学部 教授

北村智紀

大学卒業後、投資信託の運用会社に勤務。その後、ニッセイ基礎研究所にて資産運用や年金関連の調査・研究に従事。会社に勤めながら経済学の博士を修得。2018年より東北学院大学経営学部で資産運用や企業財務などの授業を担当。ゼミのモットーは「自由」だが、「自由とは決して簡単な話ではない」という真意の下で講義を進めている。

急速な少子高齢化により、老後資金の不足が叫ばれている時代。私たちはどうやって老後資金を蓄えていったらいいのでしょうか。

毎月の給与から納めている厚生年金や国民年金の運用方法や、老後資金を確保するための効率的な方法を、年金運用の専門家である東北学院大学の北村智紀教授に伺いました。

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Section1 多いようで少ない「GPIF」の年金積立金

東北学院大学の北村先生は、投資信託の運用会社に勤務後、シンクタンク「ニッセイ基礎研究所」にご転職。その後大学で研究する道を選び、資産運用や年金に関して研究されています。

現在の日本は、高齢者が28.4%を超える「超高齢社会」(2019年10月1日時点)。1950年は12.1人の労働者が年金生活の高齢者を「胴上げ型」で支えていましたが、2005年には3.3人の労働者が1人の高齢者を支える「騎馬戦型」に。2045年には1.5人で高齢者1人を支えると言われています。

私たちは毎月の給与から厚生年金や国民年金の保険料が天引きされていますが、このお金はどうやって使われているのでしょうか?

「厚生年金加入者の場合、給与の18.3%が年金保険料として差し引かれています。このうち半分の9.15%は、雇用主である企業が払っていることになっているのですが、企業にとってはこの年金保険料も人件費の一部。よって事実上は、本来受け取れるはずの給与から18.3%が引かれていると思っていいでしょう。

そのうちのほとんどのお金は、現在の年金生活者に支給されています。自分の払った年金保険料が運用されて将来の年金になる、というわけではないんですね」

納めたほとんどの年金保険料がすでに使われているという事実。しかしごく一部の資金は、「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」にプールされ、運用されているそうです。

「GPIFの運用資金は、現在約100.3兆円(2021年度第一四半期決算より)。国民年金や厚生年金などの保険料の一部が、まとめて運用されています。

アメリカやカナダなどではGPIFのような組織が州ごとにあるため、この約100兆円の年金ファンドは、世界最大規模。市場では非常に存在感があります。

とはいえ、もしこの100兆円から現在の高齢者の年金を全額給付したとしたら、約2年でなくなってしまうと言われています。よって『GPIFに積立金があるから大丈夫』とは言えないですね」

またGPIFにある積立金は、将来100年以内に「2年分」を「1年分」にゆるやかに減少させる予定があるんだそうです。それだけ、年金給付に大きなお金が使われているのでしょう。また100年後には、人口減少とともに少子高齢化が解消されるという予測もあるそうです。

Section2 資産運用で重要なのは「基本のポートフォリオ決め」

世界最大規模の投資プレイヤーであるGPIF。その資金はどのような方針で運用されているのでしょうか。日頃の株式投資や投資信託の運用にも活かせると思い、北村先生に聞いてみました。

「GPIFがまず行うのは、どんな銘柄を買うかではなく、将来5年間を目途にどの資産にどのくらい投資するのかというポートフォリオの決定です。現在は、国内株式・国内債券・海外株式・海外債券が各25%になるよう、計画されています」

以前から、海外を起点として「運用結果を左右する要因は何か」「どういう意思決定が運用成果にどう繋がるのか」という研究が非常に多く行われてきました。その結果、運用成果に対して一番影響が大きいのは「資産配分」だという研究結果が出たそうです。

こうした研究結果を受けて、GPIFも基本のポートフォリオから決めているのだと推測されています。

出典:GPIF「2021年度第1四半期運用状況(速報) 」より

「こうして投資対象の配分を決めたら、次はGPIFの代わりに国内株式を運用してくれる金融機関を公募します。そして公募に応じた金融機関に委託するという方式で運用しているのです」

なおこの公募を受けると「GPIFの資産運用を任されている」という箔がつくため、金融機関の競争率は非常に高いそうです。

GPIFのファンドの運用方針は、より積極的に高い成果を目指す「アクティブ運用」と、より平均的な成果を目指す「パッシブ運用」のどちらが重視されているのでしょうか。

「よく『私は運用がうまいですよ』というファンドマネージャーがいますが、実はこの『運用が上手かどうか』を明らかにする証拠はなかなかありません。車の運転の上手さを客観的に判断しにくいのと同じです。

実際に、運用上手だと言われるファンドマネージャーを集めて運用成果を調べた結果、本当に上手だった人の割合は非常に低かったという研究もあります。よってGPIFの資金の運用方針も、アクティブ運用よりパッシブ運用の方が重視されていますね。ただ運用する市場によって、パッシブ重視か、アクティブ運用をいれていくのかは、多少異なっています」

Section3 iDeCoやNISAを使った「非課税の投資」が有効

年金保険料の使われ方や、一部資金がGPIFによって運用されていることは分かりました。将来年金が受け取れるとしても、その金額だけで生活できるとは思えません。

また老後よりもさらに手前で、生活には多くのお金がかかります。私たちはどのように資金を運用していったらいいのでしょうか。

「最初に考えていただきたいのは、運用する資金の性質です。『どういう資金をどんな目的で運用するのか』ということですね。

例えば、数年後に必要な教育資金を貯めるために、株やFXで500万円運用していたら、いざ学費を払うときに半分になっていた……という事態は避けるべきです。

だからまず運用するにあたって、退職の生活費を貯めるためなど、非常に長いスパンで考えられる資金、あるいは住宅資金や教育資金など数年後に必要な資金、さらに短期で利用する生活資金、あとは特に使用使途のない余裕資金。このように資金を色分けして、それぞれに適した運用手段を考えるといいでしょう」

このうちの超長期で運用できる資金が、老後資金の確保に充てられます。この資金はどのような方針で運用したらいいのでしょうか。先生にうかがいました。

「重要なのは、長期・分散・積立投資。よく『卵をひとつのカゴに入れるな』と言いますが、1つの投資先に全額を集中するのではなく、複数の投資先や資産に分散投資するのが大切です。

では一番有利な投資法は何か?それは、まず、税制が有利な投資手法を使うこと。例えばトヨタの株式を購入する場合でも、利益から20.315%の税金が引かれてしまうと利益が目減りしますよね。税制が有利な口座で投資するのが鉄則だと思います。

ぜひ利用していただきたいのが、まずiDeCo(個人型確定拠出年金)、次につみたてNISA(少額非課税制度)です。

iDeCoは最も税制上有利だと言われています。普段は給料から所得税や住民税を払い、残ったお金で投資するわけですが、iDeCoなら掛金額が全額所得から控除できるので、いわば税金を支払う前の給与をそのまま運用に回せるということになり断然有利です。

さらに運用益に対して税金がかからないので、運用益をまるまる受け取れるのもメリット。このような税金上のメリットがある制度を利用するだけで、通常よりもかなり条件が良いわけです」

ただしiDeCoに投資するだけでは、老後資金は不足する可能性があります。会社員がiDeCoを利用できる金額は、月2万円程度です。

もし20歳からこの金額を40年間積み立てたとしても、積立総額は1,100万円程度。運用によって1.5倍〜2.0倍になったとしても、1,650万円〜2,200万円と、世帯分の老後資金が十分賄えるとは言えません。

そのため、中長期的に運用できる資金を使って、つみたてNISAによる非課税での運用も併用するのがいいと、北村先生は言います。さらに、生命保険や医療保険の保険料にも「生命保険料控除」が利用でき、所得からいくらか控除できますので、保険も活用してみるといいでしょう。

Section4 余裕資金では「個人投資家ならでは」の運用を

最後に、余裕資金を使った株式投資は、どのような方針で銘柄選定や運用を行うといいのでしょうか?アドバイスをいただきました。

「株式投資では、生活に身近な企業や応援したい企業などの株式を買って運用すると、資産運用の経験が積めて勉強になります。値上がり益だけでなく、株主優待や配当といった楽しみもありますよ。NISAを利用して非課税で運用するのもおすすめです。

GPIFなどの大きなプレイヤーは、資産規模の兼ね合いで、誰もが知っているような大型株などしか買えないという制約があります。

しかし個人投資家が行う株式投資にはこうした制約がありません。小型株から大型株まであらゆる株式が取引できますし、ETFや投資信託などにも投資できます。個人投資家ならではの運用を楽しんではいかがでしょうか」

近年は米国株の人気も高まっています。米国株が1株から売買できるため、日本株よりもさらに少額で投資が可能です。アップルやマイクロソフトなどの有名な会社の株式も買えますし、クリーンエネルギー業界の株式に投資するETFなど、日本ではなかなかできない投資も可能です。会社が終わってから、夜な夜な米国株投資を楽しんでいる会社員投資家もいるとか。楽しみながら資産運用を行ってみてはいかがでしょうか。

執筆:金指 歩

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