FXの表示は、ドル/円、ユーロ/ドル、豪ドル/円といった具合に、必ず二つの通貨によって構成されています。この二つの通貨による表示を「通貨ペア」と言います。
その通貨が存在する限り、基本的にはいかなる通貨同士でもペアを組むことは可能です。
たとえば、インド・ルピー/円も可能ですし、NZドル/タイ・バーツも可能です。
ただし、通貨ペアには「流動性」という縛りがあります。
ドルや円やユーロといった主要通貨は流動性が高い、つまり交換しやすいのに対して、インド・ルピーやタイ・バーツといったマイナー(主要でない)通貨は流動性が低い、つまり交換しづらいのです。
正常なマーケットでは当たり前のように交換できていても、いったん紛争やクーデター・テロあるいは金融危機やデフォルト(国の債務不履行)といった非常事態が起きると途端に交換不能となるのが、マイナー通貨の怖いところ。
つまり、主要通貨とマイナー通貨の違いとは、国・地域としての安定度の違いです。
どんな通貨も理論上は「ペアを組むことは可能」ではあるものの、マイナーな通貨と主要通貨のペアはもちろん、マイナー通貨同士のペアはおすすめできないのが現実です。
そして、身近な「クロス円」にも落とし穴はあるので注意が必要です。
クロス円も、理論的にはいかなる通貨ともペアを組むことが可能。
しかし、普段からよく目にするポンド/円、豪ドル/円、NZドル/円であっても、ひとたび事が起きれば、流動性はたちまちなくなります。
一番記憶に残っているのは、2008年9月のリーマンショック(※)の時です。
※リーマンショック:2008年9月の米投資銀行リーマンブラザーズの経営破たんに端を発した、連鎖的な世界規模の金融危機
リーマンショックが起き、米大手証券会社は株式で大損失を出しました。
この大損失を穴埋めするために、彼らは、当時盛んに行われていた円キャリートレード(※)を大量に手仕舞い(決済)しました。為替的には、「円売り高金利通貨買い」です。
※円キャリートレード:低利の円で資金を借りて、ポンド、豪ドル、NZドル、米ドルといった当時の高金利通貨で運用するトレード
円キャリートレードの手仕舞いを具体的に説明しますと、たとえば豪ドル/円で注意しなくてはならないのは、「豪ドル/円」という為替マーケットはないということ。
豪ドル/円は、「豪ドル/米ドル」と「ドル/円」を掛け合わせて作られた理論値でしかありません。
通常のマーケットであれば、それでも回っています。しかし、ひとたび金融危機になってしまうと、理論値だけのマーケットは悲惨です。
ドル/円は、まだ流動性が十分あったから良かったのですが、豪ドル/米ドルのマーケットがないに等しく、それこそ100ポイントも200ポイントも下の買いに向かって売らないと売れないという事態となりました。
この時、どれぐらい豪ドル/円が落ちたかというと、2カ月間で39円近くの下落です。
豪ドル/円 月足(2008年)
要は、通常は普通の顔をしているクロス円でも、何かが起きればマイナー通貨としての側面をあらわにするということです。
ですから、どの通貨を扱うかについては、慎重の上にも慎重でなければなりません。
正直申し上げて私自身、流動性があると信じているのは、ドル/円、ユーロ/ドルぐらいのものです。ユーロ/円は、既に警戒しています。