エコノミストの経済指標やイベントの見方と、トレーダーの見方は違います。
※エコノミスト:経済学者やアナリスト(証券会社や銀行の経済分析の専門家)
※トレーダー:証券会社や銀行の為替ディーラーや個人投資家
エコノミストの見方は、あくまでも、発表された経済指標やイベントの内容を吟味し、景気が良くなっているのか悪くなっているのかを分析しています。 それに対して、トレーダーの経済指標やイベントの見方は、あくまでも経済指標やイベントの発表を、収益機会(利益を得るチャンス)と捉えています。
トレーダーは、マーケットの大勢(多くのマーケット参加者)が発表される指標・イベントに対して、事前にどういう発表結果を期待し、どういうポジション(持ち高)を持っていて、結果に対してマーケットはどういう反応をするかというということを予測します。
予想と実際の結果との違いが大きくなればなるほど、読みがはずれたマーケット参加者が損切りのため手持ちのポジションを手仕舞ってきますので、相場は大きく動きます。
また、発表結果については、事前予想との乖離幅(結果と予想の違い)の大きさが注目されています。たとえば、発表結果自体がマイナスでも、事前予想(発表前の予想)のマイナス幅より実際のマイナス幅が小さければ、それは良い結果と見なされ、結果がマイナスでも買い材料になります。
つまり経済指標は、予想と結果の違いが短絡的に注目されているのに過ぎません。
ポジションの偏り具合によっては、期待した発表結果が出ても素直には反応せず、ともすると、逆に動いてしまうことさえあります。 したがってマーケットのポジションの偏りやマーケットが何を期待していて、どうなると失望するのか、発表前にできるだけ把握しておくことが必要になります。
それでは、実際の例として、7月25日のECB(欧州中央銀行)理事会とその後のドラギ総裁の定例記者会見を取り上げます。
マーケットの大勢の事前予想は、金融緩和(利下げ)ムードがかなり高まっていました。
そうしたムードから、マーケットの大勢は、ユーロ/ドル、ユーロ/円で前もってユーロのショート(売り持ちのポジション)に傾けていました。
ECB理事会では金融政策は据え置き(変わらず)となりましたが、政策発表と同時に出た声明では、マーケットの期待通りの利下げや追加緩和再開の姿勢を強く打ち出しこれにより、一時、ユーロ/ドルは1.1101ドル、ユーロ/円は120.06円まで下落。
しかし、下げは小幅でした。
ドラギ総裁はECB理事会後定例的に行う記者会見で、緩和姿勢(方向性として緩和)を強調したものの、景気後退(景気悪化)の可能性は否定しており、その発言は期待するほど緩和的な姿勢ではなかったことから、緩和期待は急速に後退しました。
つまり、市場は景気後退でECBは利下げや緩和政策を取るという前提でいましたが、ドラギ総裁に景気後退の可能性はないと否定された、つまり緩和的でなかったため、前提がくつがえされ、期待が裏切られた動きとなったわけです。 (利下げの場合、金利差が意識され売られやすくなりますが、逆の動きとなった)
そのため、ユーロのショートを持っていた多くのマーケット参加者は、我先に損失を確定しようと買いに走った(損切り)ため相場は急騰(急上昇)しました。 そのため、ユーロドルは1.1188ドル、ユーロ/円は121.37円まで急反発しました。
このように、マーケットの大勢の事前予想が緩和を大きく期待し、実際にもポジションを ショートに大きく傾けていたことにより、それがECB総裁によって裏切られた瞬間、マーケットの大勢の失望からショートの買戻しが集中したということです。
したがってトレーダーは、指標・イベントに対して事前に予測しておくことが重要です。
マーケットの大勢は、どういう発表結果を期待し、どういうポジションを持っていて、結果に対してどういう反応をするのか…?
それが、トレーダーとしての「経済指標・イベントの見方」ということになります。