矛盾が顕在化するまでには思った以上に時間がかかる
過去に銀行ディーラーが犯した失敗としては、以下のような事例があります。
ある国の社会構造や金融政策がどう見ても政策として間違っていたため、銀行ディーラーはその矛盾を突くポジションを張りました。
しかし、その矛盾はなかなか顕在化しません。
そうこうするうち、むしろディーラーの方が耐えきれなくなって巨大損失を出してしまったのです。
矛盾が顕在化するまでには思った以上に時間がかかるもので、矛盾を突くつもりであるならば、相当の覚悟と体力が必要です。
ソロス氏とBOE
矛盾を突いて成功した例として有名なのは、米投資家ジョージ・ソロス氏とBOE(バンク・オブ・イングランド、英中銀)の戦いです。
1992年、英国の経済実態から考えて、ポンド/ドルは過大評価となっていました。
ジョージ・ソロス氏はそこを突き、徹底的に売り浴びせた(容赦なく売った)のに対して、BOEは徹底抗戦。
銀行と銀行を取り次ぐ為替仲介業者のブローカー各社に、BOEは最低取引5千万ポンドの買いを並べましたが、ソロス氏はひるむことなく、売り続けました。
そうした攻防戦が10日ほど続いたある日。
ニューヨークの午後、BOEはブローカー各社に預けた全ての買い注文をキャンセルしました。つまり、降参したのです。
そこからポンド/ドルは、あっという間に1000ポイント急落し、その後も引き続き下落しました。
私は、ブローカーが伝えてくる一部始終をニューヨークのディーラー席で聞いていましたが、ただただ凄まじかったです。
こうした成功例も確かにあることはありますが、やはり並はずれた精神力と資金力がなくてはできません。
スイスショック
「スイスショック」というのも有名です。
2011年、ユーロ圏の財政危機を嫌って多くの資金がスイスフランに逃避してきました。
そこでスイス国立銀行(スイス中銀)は、スイスフラン高(ユーロ売りスイスフラン買い)を抑えるために、徹底してスイスフラン売り介入をして、相場を固定しました。
これなども、どんどん流入してくる資金を為替介入で人為的に抑えようとしたことには無理があったのです。
スイス中銀はどうにか4年間抗戦しましたが、2015年1月。
とうとうスイスフラン高を抑えきれなくなり、ものの数十分でスイスフランが2000ポイント以上も暴騰しました。
このとき「スイス国立銀行は抗戦を続ける」と見た市場関係者が多く、スイスフラン売りポジションを放置したことから大損失を出し、倒産する企業まで出る始末でした。
おかしいものをおかしいと判断することは、とても大切です。
ただし、思い込みもいけませんし、油断もいけません。
おかしいことに対して、ある程度の距離感を持つことが大事です。
具体的には、いつ発生するかわからないリスクに備えて、ストップロス*は必ず入れること。
おかしいと気づいても、それが何かがわからなければ相場から必ず撤退することが重要です。
*ストップロスとは
- 損失を限定させる注文方法のこと。
記事のまとめ
- 矛盾が顕在化するまでには思った以上に時間がかかる。ここが大きな落とし穴
- おかしいものをおかしいと言い切るためには、並はずれた精神力と資金力がいる
- おかしいものに対しては、思い込みも、油断もしてはならない
- トレードではストップロス入れ、撤退するという選択が重要