相場を動かすニュースとの向き合い方とは?

為替相場は、日々さまざまなニュースによって変動しています。
そのため「こういった情報をいち早く手に入れた方が有利なのでは?」「どこから情報を取ればいいのだろう?」といった疑問を持つ人も多いことでしょう。
そこで今回は「ニュースや情報に対してトレーダーはどう向き合ったらいいのか」についてお話を伺いました。
ニュースで相場が動いた過去の事例
編集部:ニュースによって相場が動くことはよくありますが、過去の事例で有名なものとしてはどういったものがあるでしょうか?

水上:有名なものとしてはまず、1985年9月22日のプラザ合意というのがあります。
これはG7各国が日本の貿易黒字の大きさに対して文句を言ってきて、円高調整をすることになったというものですね。9月22日から急落が始まり、その後の10年間で160円くらい落ちました。
プラザ合意当日のことは記憶に残っています。当時ロンドンにいたのですが、ニューヨークのチーフディーラーからロンドンのチーフディーラーに電話がかかってきて、「ニューヨークのプラザホテルで円高調整のことが話される」という情報がありました。
そこで、週末を挟んで売れるかぎりのドルを売って待ち構えていたら、プラザ合意が実際にあって、翌週の月曜日に20円急落して始まりました。

↑ドル円月足チャート:矢印の部分がプラザ合意のあった1985年9月。その後ずっと円高トレンドとなり、1995年には80円台をつけた
編集部:週越えしただけで20円の急落とはすごいですね…!ドル円でこれ以上の短期的な急落は思い浮かばないレベルです。

水上:次に有名なものとしてはリーマンショックですね。これも相場としてはドル円で20円くらい落ちたんですけど、さっきのプラザ合意に比べればかわいいものというか。
ニュースが出て1日であっという間に落ちたのではなく、段階的に落ちたのがリーマンショックでした。

↑ドル円月足チャート:矢印の部分が、リーマン・ブラザーズが経営破綻した2008年9月。その後段階的に下落を続け、2012年には70円台をつけた
こういうショック系のときはたいていドル売りになるんですが、逆にドル買いになったのは「アベノミクス」と「黒田バズーカ」というのがありました。
アベノミクスは2012年の12月でしたが、これも噂としては10月くらいから広まっていて、特に米系ファンドなんかはこれに乗っかってずいぶん買ってたんですよね。12月にそれが実際にあって、米系のファンドはクリスマス返上で、クリスマス当日もドルを買っていたということがありました。
翌年になると、黒田日銀総裁の黒田バズーカ第一弾があって、これでまた一段と上がって、さらに2014年の10月31日に黒田バズーカの第二弾があって、さらに上がったと。アベノミクスと合わせると合計で40円くらい上がったことになります。上がったパターンとしてはこれが大きなものでしたね。

↑ドル円月足チャート:2012年のアベノミクスに始まって、2015年まで上昇トレンドが続いた
直近に起きたケースとしては、今年(2025年)の5月12日ですね。
このときはアメリカの財務長官と中国の副主席がスイスのジュネーブで貿易協議を行い、予想もしていなかった大幅な譲歩になったんです。
この5月12日というのは月曜日で、共同記者会見のニュースが出た瞬間にドル円が吹き上がりました。たまたまこのときはニューヨーク勢が週越えでショートポジションを持っていた可能性が高く、彼らは自爆したのではないかと思っています。
最近はトランプ砲がよく出るので、こういったニュースヘッドラインによる荒い値動きが非常に多くなっていますね。

↑ドル円4時間足チャート:矢印の部分が2025年5月12日
大切なのは「投機要因で動いている」という意識
編集部:こういった、ニュースによって相場が動いているときの注意点としてはどんなことがあるでしょうか?

水上:非常に大切なのが、「相場が動いている理由は投機要因」と意識しておくこと。つまり「投機筋の連想ゲーム」だということです。
ニュースで相場が動く場合、ほとんどすべてが投機要因です。たとえばアメリカの雇用統計が予想よりも悪かったら一斉にドル売りになったり、日本製鉄がUSスチールを買収するとなったら一斉にドル買いになったり。
こういうものはすべて、投機筋が連想して「これは売り・これは買い」と判断して、売ったり買ったりをしているということなんですね。あたかもそれが実態経済を現しているかのように見えるかもしれませんが、実は連想ゲームをしているだけで、何も起きていないのに先走りをして相場を作っているわけです。
そういった先走りによってできた相場がいくら動いたとしても、投機筋には宿命があります。つまり、連想ゲームで売ったとしたらいつかは買い戻さなければいけないし、買ったのならいつかは売らなければならない。逃れられない宿命があるわけです。
この宿命があるために、基本的に相場は「往って来い」になってしまうんですね。
往って来い(いってこい)とは?
相場が一方向に動いても、結局は元の水準まで戻ってくること

↑ドル円15分足チャート:2025年8月26日9:00ごろ、トランプ大統領がFRB理事を解任したニュースで約80銭下落したものの、午後には全戻しの「往って来い」状態に
1985年のプラザ合意の場合は、政策的な意図に基づいて行われたものなのでまだ戻り切れていませんが、基本的には往って来いになるものなんです。
編集部:戻るまでの時間に違いはあっても、投機要因で動いている限り「往って来い」になる確率が高いということですね。

水上:ですから、ニュースが出て相場が動く場合は必ず「これは投機要因だ」ということを意識することが大切なのです。そういう意識がないと、往って来いになるイメージも湧かないですよね。
ただただ狼狽して売ったり買ったりするのは非常に危険で、そんな取引によって損失を出している人がほとんどではないでしょうか。投機要因だというのがわからず、真面目に考えてしまうことが多いんですね。
ですから意識的に「この相場は投機要因によって作られている」「いつか戻ってくる」ということを考えていないと、痛い目に遭います。
編集部:では、投機要因で相場が動いている場合、どのような戦略が考えられるでしょうか?

水上:私が提唱しているのが「順張り・速攻・勝ち逃げ」です。
ニュースが出て、下がるのなら売っていく。ニュースによって買われるのなら素直に買っていくというやり方です。その代わり、結局は往って来いになるわけですから、利が乗ったら決済して勝ち逃げすることが大事なんですね。ほとんどの場合、長くポジションを持ち続けるとロクなことがないです。
投機筋というのは短期的な破壊力はありますが、持久力がないので続かないんですよ。ですから、利益が乗ったらしっかり利食いをすることが大事ですね。
経済ニュースやメディアの相場予測との向き合い方
編集部:世の中には、マーケット情報を扱うさまざまなメディアがあります。どういったメディアを見ていればいいのでしょうか?

水上:まぁ定番のブルームバーグ・ロイター・日経などといった話になるかと思いますが、これらの情報や分析などを鵜呑みにするのも危険だと思います。情報を得るならできるだけ一次情報を取りに行くことが大事です。
編集部:新聞や経済ニュースも、一次情報ではない可能性があるということですね?

水上:そうですね。非常に意図的だし、加工されているし、取捨選択されています。ある意味、誘導しようとしているのが見え見えなところもあるんですね。
マスコミの怖いところは、センセーショナルにしようとすることです。

たとえば2年前の3月にシリコンバレーバンクというアメリカの銀行とクレディスイスというスイスの銀行が破綻したんですけど、そのときも結局、マスコミは焚きつけるだけ焚きつけて、マーケットをパニックにさせただけだったんですね。
編集部:確かに、不安をあおるような報道があったことをよく覚えています…。
では、一次情報というのはどのように取ればいいのでしょうか?

水上:それはもう、実際の相場を観察するしかないんですよ。
例えば2022年にドル円が急速にドル高円安になっていったとき、マスコミは「日米金利差の拡大によってドル高円安だ」という説明をしていたんです。日米に金利差があれば機関投資家が買うだろうという論理ですが、私はどうしてもそれが信じられなかったんですよね。
なぜかというと、主な機関投資家である生命保険会社はバブル崩壊のときに外債で大損失を出して、それ以来外債に対してものすごく慎重になっていたからです。ドル円が上がったからといって、すんなり買うことはほとんどしていなかったんですね。
ですから、マスコミが言っていることはおかしいと思った。そして相場を観察して、日本の実需の「ドル不足のドル買い」というものに思い当たったんです。
日本は輸入依存の国であるうえに、サプライチェーンについてもおかしくなってしまって、輸入に関する支払いがものすごく増えてしまっている。それで急速に円売りドル買いが増えて、ドル高円安が進んだのではないかと。
これを観察するために何をやったのかというと、毎日朝7時から10時の仲値が決まるまで、1分足チャートでチェックしたんですね。そうしたら確かに実需の買いが出ていて、ピョンピョン跳ねるような特有の動きをするんですよ。実際にそういう動きを見て、これが原因でドル円が上昇しているというのがわかった。
つまり、観察をしていかないと一次情報というのは得られないということです。
編集部:なるほど…。ニュースは重要な情報ではありますが、それだけで勝てるほどFXは甘い世界じゃないですよね。
今後は相場の情報に向き合うスタンスとして、相場を観察すること、そして「ニュースで動いているときはほとんどが投機要因」ということを意識したいと思います。
今回もありがとうございました!

今回のまとめ
- ニュースによって動く相場は投機要因
- 投機要因で動いた相場は基本的に「往って来い」になる
- 相場を観察して一次情報を取ることが大切
この記事の執筆者

エフプロ編集長
齋藤直人
SAITO NAOTO
略歴
紙媒体で約20年の編集経験を積み、趣味系雑誌4誌の編集長を歴任。雑誌の特集記事だけでなく、企業とのタイアップ企画、地域活性化事業への参画など、コンテンツ制作力を活かして幅広いフィールドで活躍。国会議員、企業の重役、スポーツ選手、芸能人などジャンルを問わず幅広いインタビュー経験を持つ。現在は株式会社キュービックのエディターとして、エフプロを中心に記事クオリティ向上に尽力中。