相場の世界で生き残っていくために「感覚」は必要?

一般的に、トレードの判断の決め手になるのはテクニカル分析やファンダメンタルズ分析ですが、そのどちらでもないものとしては「感覚」というのもあります。
今回は、はたしてこれがトレーダーに必要かどうか、感覚を磨くために必要なことはあるのか…などについてお聞きしました。
FXは海外投機筋と卓を囲んだポーカーのようなもの
編集部:今回は「トレーダーの感覚」という、非常にとらえどころのないものについてお聞きしたいと思っています。こういった「感覚を磨くこと」は必要なのでしょうか?
例えば、プログラムやルールなどを設定して、機械的にトレードしていく方法もあるかと思いますが…

水上:これは意見が分かれるところですね。人によっては「感情を入れたくない」という意見もあって、完全にプログラムによってトレードしている人もいます。
ですから最終的には好みの問題だとは思いますが、個人的に言わせてもらえば、必要なのではないかと思っています。
トレーダーは日々、為替レートを見ていますよね。パソコンやスマホの画面を見ていると、チカチカとレートが変わっていきますが、このレートには世界中の市場参加者の思惑がすべて入っているんです。
これを読んでいくためには、感覚というものも非常に大事だと思っていますね。

編集部:水上さんは、以前の連載で海外投機筋について解説していただいたとき、彼らと向き合うことについて「ポーカーのようなもの」とおっしゃってましたね。
確かに、ポーカーをするときには相手の考えを読む必要がありますからね。

水上:今のFXの世界(※2025年6月時点)でいえば、シンガポール・ロンドン・ニューヨークという海外投機筋と、日本の個人投資家の4人が卓を囲んでポーカーをやっているようなものです。

ただ、やはり熟練度という点においては本邦個人投資家は経験が浅い。初めての経験が多いと、何かあるたびに新鮮に驚いてしまって、他の3人に資金をかすめ取られてしまうことが多いですね。
しかし、それが相手の仕掛けだということがわかってくれば、毎回驚くこともなくなってきます。そういう意味では、相手を研究することがとても大事だと思います。
編集部:熟練トレーダーになると「なんとなく嫌な感じ」がわかるようになると聞きます。こういった感覚を磨いていくことも大切なのでしょうか。

水上:皆さんも、ポジションを持っているときに「どうも予想した値動きとは違うのではないか」とか「どうもおかしい」などと感じることはあると思うんですね。
しかし、そういった感覚があったにも関わらず、打ち消してしまう人が多いんです。しかし、おかしいと思ったものはおかしいと見た方が、マーケットの状況を正しく把握できることが多いですね。
車の運転をする人なら、「バックミラーにチラッと何かが写ったような感覚」といえばわかりやすいかもしれません。もしも何かがチラッと写ったような気がしたなら、安全確認をしなければならないですよね。それと同じだと思うんですよ。
何かしら頭をかすめる感覚があったとしたら、それはやはりチェックしないと。

編集部:「何かがおかしい」という感覚に素直になることができれば、損切りもできるようになりますね。

水上:まさにそうですね。おかしいと思ったら早めに損切りをすることが大事です。そもそも相場を100%当てるなんてことはあり得ないわけですから、自分の意志で損切っていくことが大事です。
ポジションを持っているときは万が一のことを考えて逆指値注文を入れていると思いますが、そこに到達して損切りになってしまうと、大きく体力を失ってしまうことになりますからね。
おかしいと思ったら逆指値注文に頼らず、自らの意思で損切っていくくらいでないといけません。
編集部:水上さんのこれまでのトレード人生において、「感覚」に助けられた場面はありますか?

水上:印象に残っているのは、ディーラーをやっていた時代ですね。その当時は「お客さんから電話がかかってくる感覚」がありました。
「そろそろ電話が来るな」というのは感覚でわかっていて、実際に来るんですよね。そのときには心の準備ができているのでプライスを出せるわけです。
あとは、何か相場が大荒れになるようなことが起こる前には、背中が総毛立つようなゾワゾワした感覚がありました。激しくトレードをやってた時期というのは、ある意味、動物的になっていたんだなというのを感じますね。

例えばニューヨークにいたときですが、ドル円で5000万ドルの買いポジションを持っていたことがありました。
しかし、どうも相場が重たく感じたんですよね。そこで「ここまで重いなら売ればいいんじゃないか」という気持ちが強まって、5000万ドルのロングから5000万ドルのショートにひっくり返したんです。
そうしたらその10分後くらいに、ニューヨーク連銀が介入してきたことがありました。そして結局、東京タイムに入るまでの間に5円も落ちたんです。
たまたま上司も5000万ドルショートにしていて2人で1億ドルを持っていたので5億円儲かったことになりますが、その時は上司も含めて全部「感覚」の世界でやっていますよね。
もしもあのとき、5000万ドルのロングを持ったままだったらどんな目に遭っていたかわかりません。
編集部:それはすごい話ですね…。
そういった動物的な感覚を身に着けられたらどんなにいいだろうとは思うのですが、これは一朝一夕に身に着けられるものではないだろうなとも思います。
もし、訓練するとすればどんなことが効果的だと思いますか?

水上:何でもそうですが、やはりトレード経験を豊富にすることですね。
デモトレードはシステムの機能や操作方法はわかりますが、それでポジションを持ってもあまり意味がありません。
なぜなら、リアルなマーケットで損益の上げ下げが刻々変わるプレッシャーは、到底デモトレードでは経験できないからです。リアルトレードで、トレードの回数を増やすことが大事です。
トレード経験を積むためには、まずは勝ち幅を狙うのではなくて、「勝つ回数」を増やすことをおすすめします。最初のうちは数pipsとか、ほんのちょっとの儲けでもいいので、何しろ勝つ回数にこだわることですね。その回数を増やしていくことによって経験値が上がり、応用力がついてくるんですよ。
いずれにせよ勝ち慣れないことにはどうしようもないということです。
編集部:経験を積むことで、具体的にどんなことがわかるようになりますか?

水上:例えば「ヘッド・アンド・ショルダー」のような有名なチャートパターンにしても、それが自然発生的にできたものなのか、それとも意図的に作られたのかで、意味合いはまったく違うんですよ。
ヘッド・アンド・ショルダーのチャートパターンは、左肩・頭・右肩という順番に形成されていきますが「右肩ができた後にネックラインをブレイクすると、頭の高さ分だけ落ちる」というのが教科書的なセオリーですよね。

しかし、意図的に下にブレイクさせているような場合は、強引に売って下げているので、むしろ下げきれずに跳ね返ってしまうことが多いんですよ。
相場が自然発生的に形成されている状態なのか、それとも意図的に作られているものなのかは、経験を積まないとわからないところだと思います。
編集部:なるほど…確かにそうですね。
最後にちょっと変わった質問をしてもいいでしょうか。「感覚」というのは非常に繊細なものだと思いますし、体調の影響もあるのではないでしょうか?

水上:それはね、やっぱりありますよ。
有名な相場師に是川銀蔵さんという人がいますが、彼の相場の心得の一つに「よく寝ること」というのがあります。これはすごくいい言葉だと思っていますね。
相場の世界では何が起こるかわかりませんし、健康上に問題があったらポジションはスクエアにすることが大事だと思います。

編集部:やはりそうですよね。ありがとうございます。
今回のテーマはまさしく感覚的で、あまり具体的なアドバイスができないものだったかもしれませんが、トレーダーとして成長していくうえで「感覚」は決して無視できないものだと思います。
日々トレード経験を積み重ねる中で、「感覚を磨くこと」も意識していきたいと思います!

今回のまとめ
- 相場の世界を生き残るためには感覚も重要
- 「何かおかしい」という感覚を見逃さない
- 感覚を磨くためにはトレード経験を積むことが大切
この記事の執筆者

エフプロ編集長
齋藤直人
SAITO NAOTO
略歴
紙媒体で約20年の編集経験を積み、趣味系雑誌4誌の編集長を歴任。雑誌の特集記事だけでなく、企業とのタイアップ企画、地域活性化事業への参画など、コンテンツ制作力を活かして幅広いフィールドで活躍。国会議員、企業の重役、スポーツ選手、芸能人などジャンルを問わず幅広いインタビュー経験を持つ。現在は株式会社キュービックのエディターとして、エフプロを中心に記事クオリティ向上に尽力中。