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カレンシーボード制とは?激動の香港の為替を通じて固定相場と変動相場の違いを教えてもらいました

民主化デモが続く中、中国当局が本格的に乗り出し、緊張が続く香港ですが、為替の世界でいうと香港ドルは非常に特殊な通貨ペアです。

今回は香港ドルが採用しているカレンシーボード制と、固定相場のメリット、デメリット、変動相場などとの違いを、明星大学経済学部の中田勇人教授に易しく解説していただきました。

お話をうかがった人

明星大学中田教授

明星大学 経済学部

中田勇人 教授

HAYATO NAKATA

略歴

一橋大学大学院を単位取得満期退学後、明星大学経済学部専任講師、同大学准教授を経て2020年から同大学教授。最近の研究テーマは石油価格や為替レートショックが経済や資産市場に与える影響についてなど。

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香港ドルは日本円や米ドルとはどう違う?

-香港の為替相場は、私たちの日本円や米ドルなどとは違う仕組みと聞きました。

中田:はい、そうです。IMF(国際通貨基金)によれば、「自国通貨と特定の外国通貨を、固定された相場で交換することに対する明示的な法的コミットメントに基づき、その法的義務の実行を保証するために通貨発行機関に課される制約を伴う通貨制度」をカレンシーボード制といいます。つまり、自国通貨発行の全額に、外貨資産の裏付けがある制度がカレンシーボード制で、その代表例が香港ドルです。

香港ドルは、米ドルとの交換が保証されています。価格も1米ドルが7.75~7.85香港ドルの狭いレンジに収まるようになっており、前述のカレンシーボード制である条件を満たしています。

まさにここがカレンシーボード制のメリットで、なんといっても為替レートが安定します。

また、カレンシーボード制と大いに関係があるのが投機攻撃です。1990年代以降、アジア通貨危機、欧州通貨危機などで、多くの国が固定相場の放棄に追い込まれました。ジョージ・ソロスが英ポンドを攻撃した話などは有名です。

この時期に、香港の為替相場も投機攻撃を受けたのですが、こちらは生き残ることができました。これにより、カレンシーボード制は投機攻撃に強いという認識となりました。

-香港市場は大丈夫だったわけですね。

中田:カレンシーボード制がどういうものかを説明するため、銀行との比較をしてみます。

銀行との比較

バランスシート(貸借対照表)の考え方で見てみると、まず普通の銀行は、預金の大部分を貸し付けに回します。なので、もし大半の預金者が一気に引き出そうとしたら対応できません。いわゆる取り付け騒ぎが起きます。

これに対して、セブン銀行などのナローバンクは、預金を貸し付けません。左側の負債と右側の資産がイコールになるため、全ての預金を引き出すこともでき、貸し付け騒ぎは構造上起きません。

カレンシーボード制は、ナローバンクに近い制度だと思っていただくと、理解しやすいと思います。

固定相場制の場合

通常の固定相場の弱点は、一般的な銀行に似ています。中央銀行の資産の部においては、自国資産と外貨準備(外国為替市場への介入などのために保有する外貨資産)に分かれています。なので、外国為替市場で多額の「自国通貨売り/外貨買い」が殺到したら、対応することができず通貨危機を招きます。固定相場のピンチです。

対してカレンシーボード制では、全ての資産は外貨準備となっているため、多額の自国通貨売りが来ても、外貨準備を用いることで対応できます。理論上は安定している制度といわれる理由です。

-バランスシートについて、ちょっとよく分からない部分があります。

中田:主に会社の財務を表す際に用いられる考え方です。例えば企業は、負債という形で資金を調達し、それによって事業を行います。これが右側の資産の部分になります。

各国の中央銀行が発行する通貨の場合、負債としての自国通貨を誰かに返さないといけないということはありません。ただ、発行している通貨のバックには、国債などの国の資産があります。国の資産は、自国通貨建て(日本なら円建て)なので、いきなりすぐに外貨とは交換できません。そして資産の部の一部は、外貨準備という形で、こちらはすぐに交換可能です。

カレンシーボード制の場合は、右側に自国資産がなく、全てが外貨準備であるため、すぐに交換可能。つまり、投機攻撃に対応できるというわけです。

香港ドルが7.85=米ドルが1というように、完全に同数なので通貨危機は起きないという理屈です。

中田:カレンシーボード制の金利についても解説します。自国通貨売りが進んだ場合、外貨準備も減っていきます。例えば香港なら、香港ドルの供給が減ってしまいます。そうなると、金利が自動的に上がるメカニズムが働きます。金利が上がれば通貨の魅力が上がり、香港にお金が集まることで、カレンシーボードが安定します。この点も重要なので、覚えておいてください。

1970年代に日本は変動相場制に移行

-カレンシーボード制を導入している国は、香港以外にもあるのでしょうか。

中田:ブルネイ、ブルガリア、ボスニア・ヘルツェゴビナあたりですね。あとはイギリスの植民地で使われていた制度なので、カリブ海の旧英国領の小国で採用されています。ブルガリアやボスニア・ヘルツェゴビナは、ユーロとの交換、ブルネイはシンガポールドルとの交換になります。

-米ドルと組み合わせになるパターンだけではないわけですね。ところで質問です。カレンシーボード制、変動相場制それぞれには、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。

中田:良い質問だと思います。カレンシーボード制は、中央銀行がお金を主体的に動かすことができません。ですので、金融政策を実行できません。例えば香港当局は、景気の安定をはかるための行動が取れません。

またリーマンショックのような金融危機が起きたとき、変動相場制ならお金を大量に刷ることで、事態の沈静化を図れますが、カレンシーボード制ではこういったことはできません。

アルゼンチンにそういった例があります。1991年に米ドルと交換するカレンシーボード制を導入しましたが、景気が悪くなり、失業率が増加しました。でもカレンシーボード制なので、金融緩和ができず、結局はこの制度自体をやめてしまいました。

-カレンシーボード制は、金融政策ができない代償に、通貨価格を安定させるというものなんですね。

もう一つ質問です。基本的に大国、経済規模が大きい国は、変動相場制しか選択肢がないという解釈で良いでしょうか。

中田:そう言って良いと思います。資本規制をしないのなら、大国は実質的に変動相場しか選択肢がありません。経済大国である中国が、固定相場に近いやり方を維持できるのは、資本規制が非常に厳しいからです。

-資本規制とは何でしょうか。

中田:国外とのお金のやりとりに制限があることです。今はある程度は緩和されましたが、外国人が中国企業の株を買うにも、いろいろなハードルがあります。

-日本も戦後しばらくは固定相場制でしたが、1970年代に変動相場制に移行します。これはそうせざるを得ない状況だったからでしょうか。

中田:固定相場を維持できなくなる要因として、相手方の通貨の状況があります。1970年代というのは、ベトナム戦争後の時代で、米ドルが非常に不安定でした。この影響が日本に波及することに対応した側面があります。あとは国際間でお金の移動が多くなり、固定相場を維持できなくなったという点も無視できません。

-なるほど。「香港ドル」という通貨は日本人にとって少々分かりにくいところがありますが、今回のお話でだいぶ理解が深まりました。ありがとうございました。

最後に、エフプロ読者にはFXを始めたばかりの初心者も多いので、為替の勉強についてアドバイスをお聞きしてよろしいでしょうか。たとえば、外国為替の仕組みを詳しく知ることができるオススメの入門書などはありますか?

中田:『為替の基本とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)という、脇田栄一さんが書かれた本ですね。制度の部分が詳しく解説されています。

あとは『身近に感じる国際金融』(有斐閣)も良いです。何人かの大学の先生が書かれた本で、教科書のような内容を学びたいということであればこちらです。

-本日はありがとうございました。

まとめ

香港ドルの価格はほぼ固定されていますが、今後は、政治的な要因によってこのシステムが崩れる可能性もあります。そういった歴史的転換を見逃さないためにも、為替相場のシステムの部分も知っておくメリットを感じました。

この記事の執筆者

鹿内武蔵

FXライター

鹿内武蔵

SHIKAUCHI MUSASHI

略歴

国内唯一の月刊FX情報誌、FX攻略.comの元副編集長として、2008年の創刊時より取材・編集・執筆に携わる。多くの勝ち組トレーダーや証券会社を取材してきた経験を活かし、FXが国民的投資になることを目標に活動中。各種メディアでの執筆の他、トレーダーとしてFXの運用も行っている。

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